映画『THE GUILTY ギルティ』を観てきました。
本作はインディペンデント映画が集まる第34回サンダンス映画祭にてサスペンス映画『SEARCH(サーチ)』と並び観客賞を受賞した作品です。 大きな特徴である 「電話のみによるシチュエーション映画」 という手法そのものはこれまでにもありますし、目新しいものではありません。
しかし、電話のみで進行していくにも関わらず、大手レビューサイトのRotten Tomatoesでも批評家 / オーディエンスの双方から絶賛されています。
- 批評家支持率:99%
- オーディエンス支持率:89%
つまり映画『SEARCH(サーチ)』のように斬新な手法が評価されたのではなく、本作の見所はより深いところに存在しています。
電話越しの会話だけで進行していくということは、観るだけでなく聞くことが主となるこの映画。
一体見どころはどんなところにあるのでしょうか?
映画をまだ観てない方と、既に観賞した方のためにそれぞれまとめてみました。
目次
映画のあらすじ
人間が聴覚から得られる情報は、僅か11%。
あなたの〈想像力〉はその限界を越えられるか――
緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。
そんなある日、一本の通報を受ける。
それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。
彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。
車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い・・・。
微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか―。
映画を楽しむポイント
これから映画を見る方向けに、抑えておくとより楽しめるポイントをご紹介します。
主人公の人間性
映画の主人公アスガーは、緊急通報指令室のオペレーターとして働いている。
どうやら元々彼は現場の人間のようだが、オペレーターとして仕事をしているのには事情があるようだ。
最初はかかってくる電話に応対し、手慣れた様子で適切に対処していく様は、まさにベテランと言える見事な仕事ぶりだが、
それと同時に私用の電話をしてしまうなど、どこか現状に満足できずにやる気のない様な一面も見てとれる。
そんな序盤に垣間見えるアスガーの人間性が、物語の展開に合わせて徐々に明らかになっていきます。
実は映画を楽しむ上で、 このアスガーの人物像は、 "ギルティ"という映画を読み解く上で非常に重要な要素になります。
ぜひ注目して観て下さい。
主人公と観客の得られる情報量が同じである
映画は常に緊急通報指令室の中のみで進行していく。
そしてそこにいるアスガーが得られる手がかりは、常に電話のみ。
つまり、 映画の観客とアスガーは現在進行形で同時に事件への手がかりを得ていく
のです。
そしてその手がかりは、音声のみ。
ということは想像しますよね。もちろん、どう想像するかは千差万別、人それぞれです。
それがこの映画の醍醐味です!
音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない、ということにヒントを得た。観客一人ひとりの脳内で、それぞれが異なる人物像を想像するのだ。
監督のグスタフ・モーラーはこう言っています。
ぜひ電話から得られる情報を元に、何が起きているのか想像してみて下さい。
既に映画を観た方へ – 映画の考察
ここからは映画を観賞した人向けの内容になります。
ネタバレ が含まれますので、ご注意ください。
映画を捉える3つの視点
ところで主人公と観客の得られる情報量が同じと前述したが、厳密に言うとそうではない。
主人公が以前、不祥事を起こしてオペレーターとして勤務するに至った文脈を、観客の我々は把握しきれていないのだ。
つまり情報量としては 主人公 > 観客 となるのかと思いきや、それもまた違う。
なぜなら 観客は第三者視点でアスガーを見ているからだ。
アスガー自身でも気づかない彼の立ち振る舞いをみて、我々は映画の核心に迫っていく。
そう、アスガーがギルティである理由は映画が始まる前の文脈に存在しているのだ。
作中での主な情報軸
- 我々には知り得ない、映画が始まる以前から存在するアスガーの文脈
- 映画の進行に伴い、我々とアスガーが同時に知り得る情報
- アスガーの立ち振る舞いを見ながら得られる、彼に基づく情報
なぜギルティなのか?
ギルティは英語で【罪 / 犯人】と言った意味がある。
緊急通報指令室にかかってくる一本の電話でアスガーが事件に遭遇する。
事件そのものや、犯人がギルティなのかと思いきや、そう単純なものではない。
アスガーは通報してきたイーベンという女性に、自己投影していたのではないか?
イーベンという女性もアスガーも自身の中に罪を抱えている。
イーベンの罪
イーベンは精神の病を抱えており、過去に精神病院に入っていたこともあった。
泣きじゃくる赤ん坊の息子を助けるために、彼を殺してしまったのだが彼女は殺したことに気づいていない。
むしろ助けたと認識していたのだが、やがて息子を無意識に自らの手に掛けたことに気づいてしまう。
そこが彼女が自身の罪に対峙した瞬間だ。
そして自身の罪に耐えきれずに、橋の上から身投げをしようとしてしまう。
アスガーの罪
彼は過去に人を殺している。これが彼の抱える第一の罪だ。
その不祥事のせいで左遷されて電話越しにオペレーターをするに至っている。
また、以前組んでいた相棒に
そしてオペレーター勤務の最終日にイーベンと電話越しに出会うのだ。
彼は彼女を救おうと必死だ。
必死なあまり、自分の業務の枠組みを越えて、事件に干渉しようとしてしまう。
結果として幼い娘に弟の無惨な姿を見せてしまったりなど、彼の試みは空回りどころか逆効果にすらなっている。
これが彼が作中で、進行とともに抱えていく第二の罪である。
罪の告白
イーベンが息子を殺してしまったという自らの罪に気づかされた時、彼女は身投げして自らの命を断とうとする。
しかし、イーベンを救おうと必死なアスガーは彼女を踏みとどまらせようと必死なあまり、自らの罪を告白する。
自らの罪に気づいたイーベンに、罪を抱えるアスガーは自己投影したのではないか?
明日に裁判を控えているにも関わらず、職場で自らの罪を告白するアスガー。
それに応えて踏みとどまるイーベン。
自らの罪を告白し、「罪人」であることを受け入れ、ギルティという映画が完結する瞬間である。
最後に
評価: 4.0
耳で見る映画を劇場で体感せよ。一語一句を見逃すな!
『THE GUILTY ギルティ』は映画を通して、 イーベンの事件 と アスガーの過去 という2つの真相に、音という情報のみで迫っていきます。
この2つの罪は、直接的に交わる描写はなけれども、圧倒的に近いものに感じられます。
映画のタイトル『THE GUILTY ギルティ』の意味もわかり、現在起きているイーベンの事件とアスガーの過去が明らかになるとき、
初めてアスガーは緊急通報指令室から外に出て、彼らの物語は次のステージへ。
無駄なモノが一切なく削ぎ落とされており、でも非常に緻密に作られた映画といえるでしょう!